平成生まれの寡黙OLが昭和アットホーム企業で働く

都市伝説的飲み会―平成寡黙OL@昭和アットホーム企業

平成生まれの寡黙OLが昭和アットホーム企業で働く

長い長い納会

「ウチ、年末は3階で食べ物とか用意して納会やるんだけど、エモトさんもどう?」

2019年の12月、”ピザ”やら”寿司”やら浮かれた単語がよく聞こえてくるなと思っていたころ、藤森さんからそう言われた。

昭和アットホーム企業の3階は広めの会議スペースになっている。あそこで軽いオードブル的なものが振舞われるのだろうと予測し、「せっかくなので」と回答した。

私が元いた寡黙IT企業でも、年末の最終営業日にはフロアの端の会議スペースでオードブルと缶ビールやチューハイ等がスタンディング形式で振る舞われる納会があり、その日の終業後はいつもの静かな職場とは違ってデパ地下のようにザワザワとしていた。とは言え、特定のプロジェクトに属していたわけでもなく、ぜひ話したいと思う人もいない私は、参加せずに定時で退社していたのだが。

さて、片や昭和アットホーム企業の納会、本社勤務の全員が3階に召集されたのは、なんとお昼の13時。真っ昼間中の真っ昼間だ。そして、長方形に並べられた長机を囲む形で、適当なところに着席させられる。机に並べられていた飲み物は缶ビールやチューハイとウーロン茶、食べ物はピザ3枚、5人前くらいの寿司桶が3つ、ケンタッキーのチキンが20個だったか。

社長が喋り、続けて偉い人が数人喋り、嘘みたいに明るい中で賑やかに乾杯の音頭がとられた。こういう場ではさすがに寡黙なままではいられまいと、私も出来るだけ害のない話題を絞り出しつつ会話に参加し、それなりに楽しく時間は流れていった。ここでも「エモトさんの旦那さんって」という質問を多く受けたので、夫の存在に感謝しながら。

紙コップの中の酒がなくなると、どこからともなく「次どれにする?」と声が掛かったのは、雑談という名の事前調査で、私がお酒に強いことが知られていたからかもしれない。そして私以外の皆もとてもよく飲むしよく食べる。声量も寡黙IT企業の納会の比じゃないし、親戚が久々に集まった!くらいの活気があった。

自然発生的な席替えが盛んで、他の課の女性が座っていた私の隣にはいつの間にか伊東さんが座っていて、楽しそうにお酒を勧めてくれたり、誰かが私を手招いて、家で飼っている猫の写真を見せてくれたりと、その光景はアットホームそのものだった。

机の上のお酒やおつまみも少なくなってきて”そろそろ終わりかな?”と思うと、藤森さんが「僕買ってきますよ!」と言って消え、そこそこの量のお酒やおつまみと共に戻ってくる。どこからかお歳暮なんかでいただいたという日本酒まで出てきた。この会は終わらないのではないかと思った。

結局、納会は人数が減りつつも20時過ぎまで続いた。7時間にも亘って酒を飲み続けたおじ様たちは相当へべれけになっていて、藤森さんなどは別のフロアのチェアに座って熟睡していた。やっと解散となった時、私はサラッと帰宅させていただいたが、年明けに聞いた話では、帰り際に酔った藤森さんが暴れてセコムが出動してきたらしい。柴田さんと他の課の女性が二人で介抱したらしく、そそくさと帰ったことを申し訳なく思ったが、その場に居合わせたら最悪な気持ちになっただろう。

昭和アットホーム企業の飲み会は、とことん飲んでとことん楽しんでやるという意気込みがほとばしる戦場のようだった。会話に参加する努力をし、色んな種類のお酒もいただいて、それなりに楽しみはしたが、結論としては私の好みではなかった。”何が何だかもう分からないけど、楽しいね!”という気持ちを共有して嬉しいのは、私にとって心を開いた家族やあ友人だけだからだ。ある程度の知人までなら、それなりに節度のある時間を過ごさないと、私は疲れてしまうのだと初めて気が付いた。今回は、良い勉強になったと思う。

そして迎えた2020年の仕事初めの日、驚くべき言葉を聞いた。

「今日も夕方、3階で食べ物とお酒出すんだけど、どうする?」

さすがアットホーム企業だ。年末年始を挟んだとはいえ、2営業日連続で飲み会なんて。勉強は一度でいいと思った私は、「予定があるので」と帰宅した。

これがよく聞くあれか

ところで納会中の藤森さんについて、隣に座った時に椅子をずらして寄って来ることや、席を外したときに廊下ですれ違うと、少しの会話のあと、ハイタッチでもなく、なぜか「ここにエモトさんの手を重ねてよ」と言わんばかりにそっと手のひらを向けてくるのが気になった(これに対しては意図的に苦笑を浮かべながら首をかしげてスルーした)。

また藤森さんは、年明けに開催された、取引先の方たちも招いた新年会で、手相を見ると言って営業の女性の手を離さなかったらしい。社長は「ひどいよな~」と、それを激写した画像を面白そうに見せてくれた。参加していた女性陣も「あれはかわいそうだったよ~」と言っていた。だったら止めたらいいのに。引き剥がしたらいいのに。

その営業さんがどんな態度で応じたのかは知らないが、結局ひどいとか可哀想とか言いながらもみんなその場では容認しているのだ。前職の寡黙IT企業の歓送迎会などは何度か参加したが、それはそれは穏やかな飲み会だったので、こういう問題は都市伝説だと他人事のように思っていたのに、今こうして間近に感じることになった。

しかし、昭和アットホーム企業はこれを含めて昭和アットホーム企業なのだろう、私一人ではどうしようもないことでもある。もしその営業さんが嫌な気持ちになっていたらどうしよう、などと考えても、私は彼女の名前も知らないのだ。そんな中であえて「それをされて嬉しい人っているんでしょうか?」なんて質問を投げかけて波風を立てるというのは、寡黙OLにはリスクが高い。結局私もこうして容認の空気に加担しているのだ。ごめんなさい。

もし私がその新年会に参加していたら、その営業さんの隣に割り込んでいけただろうか。嫌がっているかどうか目で見て分かっただろうか。必要であればその手を本人に代わって引っ込めることができただろうか。どのように振る舞えば収まりよく被害女性から酔っ払いを引き剥がせるのだろうか。いや、収まりよくなんて考えること自体が間違っているのではないか。この妄想は今後の自分を変えていくはずだと思う。少なくとも今は、そういうことが出来る自分になりたいと思っている。

しかし、結局は事なかれ主義の寡黙OLである私の、今後昭和アットホーム企業の酒の席に参加する意思は、年末年始を経て砂粒ほどの誤差もない綺麗なゼロとなった。

締めの宣伝

何か月も会えていない高校時代の友達と集まりたいのに、コロナウイルスによる外出自粛のおかげで目途が立たず悲しみに暮れている。そんな私エモトモエが歌担当として活動する”めおとロックバンド”ヌレセパのMVごっこだが、古い順に宣伝していたら早くも2ndアルバム『ちゃんとついてきて』の収録曲に突入した。

今回紹介するのは㎹ごっこナンバー007『普通の一日、半端なエンド』。”労働は19時まで 夕食を買って帰宅”と歌い出すこの曲では、平凡な毎日を単調に過ごしていく、何とも言えない気持ちを、サンバチックな楽曲に乗せてリズミカルに歌っている。動画は、夫であるヒロと揃っての海外旅行デビューとなった、韓国旅行中に撮影したものだ。