奇妙な外出と内輪ノリ―平成寡黙OL@昭和アットホーム企業

平成生まれの寡黙OLが昭和アットホーム企業で働く

勤務時間中に…中小企業あるある?

「どこどこに行ってきます」「行ってらっしゃい」

「戻りました」「おかえりなさい」

何かと外出の多い昭和アットホーム企業では毎日挨拶が飛び交っている。

寡黙IT企業にいた時の私は、自分が外出をすることは0に等しく、誰かが席を外す時にも声を掛けられることはほとんどなかったと思う。

電話を取り継ごうと席を見やると姿がなく、Outlookの予定表を確認して「あ、会議中だな」と分かるような、コミュニケーションレスな状況に慣れてしまっていた。

そんな私でも、やり取りが盛んな周りに合わせて声を出すうちに、お昼の休憩で外に出るときも「休憩いただきま~す、行ってきま~す」などと言いながらフロアを去れるようになっている。

その日も、伊東さんが身支度をして席を立ち、社長含むフロアのメンバーに外出を告げた。

「ちょっと歯医者行ってきます」

「行ってらっしゃ~い」

もちろん勤務時間中のことだ。歯医者に?今?みんな普通に送り出してるし。え、日常…?

その場では他に合わせて「行ってらっしゃい」と送り出したが、「歯医者に行ってくる」と家族以外に伝えるというのは、私にとっては奇妙なシーンだったので、少し面白く思ってしまった。

しばらく過ごしてみると、このように気軽に病院などに出掛ける人というのは、社長と、伊東さんと、藤森さんに固定されているようだ。

行先は、歯医者、病院、美容院、クリーニング店、リハビリなど。もちろん出掛ける前に、「○○行ってきまーす」などとオープンに宣言して行く。みんなも自然に送り出す。私は再び思うのである。「家族かよ」と。

ちなみに社長が床屋に行くときは、藤森さんを3発殴ってから出かけるらしい。3発、サンパツ、散髪。・・・。

内輪ノリとニックネーム

ところで、社長と藤森さんは「やぶ医者行ってきます」と出て行くことが時々ある。私から質問してはいないのだが、社長が「薬の名前を言うとくれる病院があるんだよ」と教えてくれた。

このように、昭和アットホーム企業―特に社長・藤森さん・副社長・柴田さんの会話の中では、どこかや誰かを指すとき、仲間内でしか使わないニックネームや指示語が用いられていることが多い。

名前をモジったものなら可愛いが、色黒だから”日サロ”とか、単純な悪口である”ばばあ”とか”あの馬鹿野郎”とか、聞いていて気持ちのよくないものもある。

そういう呼び方をしているときは、だいたい陰口や詮索で盛り上がっているときだ。勘のいい人なら推測できると思うが、昭和アットホーム企業にはそういった陰口や悪口が多い。

「○○らしいよ」「○○だったりして(笑)」

そんな中学生みたいなことを言いながら、誰かをネタにして笑っているところを見ると、私も自分がいない時には同じような扱いをされているんだろうなと思う。

悲しいことに、彼らの会話を聞きすぎて、私は私の中の彼らにものを喋らせることができるようになっている。もし私が言われているとしたらこうだろうか

「あのネクラ、若いのにテンション低いし雰囲気硬いしほんと変わってるよな」

「ですね~、でもまあ結婚できてるんですからそこそこいい女ってことなんじゃないですか?」

「夜だけは?」

「ワハハハハハハ」

締めの宣伝

ここからは、ネクラ改め”めおとロックバンド”ヌレセパのキュートな歌担当エモトモエが前のめりで宣伝する時間だ。今回紹介するのはMVごっこナンバー005、『カサブランカ』。淡い恋愛をうっとりと歌うロマンチックな1曲だ。歌いだし通り「パリにいるような気持ち」になってもらえたらうれしい。

存在しないスメハラ―平成寡黙OL@昭和アットホーム企業

平成生まれの寡黙OLが昭和アットホーム企業で働く

スメルハラスメントって言いたいだけ?

「隣の席の蜜さんってさ、香水つけてるじゃない?エモトさん近くにいるしさー、匂いがキツくて困ってない?」

ある時、藤森さんに呼び出されて入った会議室で、こんなことを言われた。

そういえば先日、柴田さんと藤森さんが自席で声を潜め、人のニオイの話をしていたな、と思い出す。

別に私は鼻が悪いわけではないと思うが、藤森さんに対する回答としてはこのように言うしかなかった。

「蜜さんは香水をつけているんですか。気付きませんでした。匂いも感じたことはありません。」

「そーう?それならいいんだけどほら、最近スメハラ? ス メ ル ハ ラ ス メ ン ト とかってあるからさー」

二人が小声で話していたとき、私の隣の蜜さんは席を外していたと思う。蜜さんの話になっていたとは気付かないほどの声量ではあったものの、何について話しているかは聞こえるボリュームだった。

そして今、面と向かって、あれは蜜さんの話だったのだと種明かしをされている。

蜜さんは柴田さんとよく雑談をしていたし、藤森さんともそれなりに仲が良さそうに見えていたのだが、実は二人は蜜さんのことをあまりよく思っていないのかもしれないと思った。

少なくとも、匂いが気になった時点で「香水つけすぎじゃない?」と伝えることはせず、小声でこそこそと噂したり、裏で「スメハラじゃない?」と言ってみたりできるくらいの、思いやりのない態度を取れる相手だったのだ。

蜜さんの匂いは、私があまり使わない倉庫室や化粧室に残っていたりするのかもしれないが、毎日隣60~70cmに座っていても感じ取れないくらいのものである。

ということで私は、二人が蜜さんの匂いを気にしてしまうのは、蜜さんと親しく振舞う中での接近か、蜜さんへの嫌悪感に原因があるのではないかと思っている。

嫌いなら近付かなければいいし、近付きたいけれども気になるというのなら伝えればいい。何も言わないなら、仲間内でヒソヒソ話をするなんて卑怯だ。と思うのだが、どうやらこの昭和アットホーム企業では通用しない感覚らしい。

そういうことなら、蜜さんの香水よりも、藤森さんが自席で歯磨きをしている時に、斜向かいの席の私にまで届く歯磨き粉の匂いの方が、よっぽどハラスメントだ。香水は人前でも香らせるものだが、歯磨きは人前でするものではないではないか。

なんてことを、寡黙OLの私が藤森さんに伝えるわけもなく、その場は「香水の匂いは気になりません」というだけで終わりになった。

ちなみに先日、蜜さんは「見て、3階に置いてあるお花が満開だったの」と、スマホで撮った赤い花の写真を見せてくれた。

実は私は、この昭和アットホーム企業の中で、蜜さんに対してだけは少し好感を持っている。”癒し”と言うべきふわっとした雰囲気に加えて、私の聞こえる範囲では害のある会話を発したり参加したりしないからだ。

だから、蜜さんの香水は、柴田さんや藤森さんではなくて、私にだけ漂ってくればいいと思う。きっと私はその香りを好きになるのに。

締めの宣伝

私が歌担当として活動する”めおとロックバンド”ヌレセパの宣伝タイムは、ブログ記事がどんなに綺麗に終わろうと必ず付いてくる。そろそろ慣れてもらえただろうか。

今回紹介するのはMVごっこナンバー004、『サンデイモーニング』。まさに昭和アットホーム企業で働く私にピッタリな、平日イヤ!来たれお休み!という曲である。

この世のすべての働く大人に届けたい。もちろん、仕事が好きで、平日も楽しくてたまらない人もいるのだろうけれど。

ちなみにこのどぎついメイクをしているのも20歳の私エモトモエだ。お気付きのようにこの”締めの宣伝”では、ヌレセパの㎹ごっこを古い順に紹介している。

毎日皆でランチ―平成寡黙OL@昭和アットホーム企業

平成生まれの寡黙OLが昭和アットホーム企業で働く

毎日ランチをご馳走する社長

「よし、食事に行こ!」

毎日11時45頃になると、社長はそう言う。

私が入社した当日は、私を受け入れるためにわざわざみんなを誘ってくれたものだと思っていたのだが、全員に声を掛けてランチに行くのは昭和アットホーム企業の日課だったのである。

そして、そのお声は私にも掛かる。

本当にありがたいことだと思うが、私はここでは寡黙(でありたい)OLだ。職場と自宅が徒歩圏にあることもあり、お昼休憩は家に戻って昼食をとることにしているので、正直に「私は家で食べるので…」と断ることにした。

しかし、毎日誘っていただいて、毎日断るのもなかなかきついものがある。ここで、しかたなく”旦那”を発動することにした。

私の夫であるヒロは、私と同じく家から近い場所で働いているので、お昼は家で食べることにしている。つまり平日の昼食も夫婦で一緒に食べているのだ。

「夫も家に帰ってきてお昼ご飯を食べるんです。だから、私も家で食べます」

一人で食べているとなると、今日くらい一緒に食べようよ、と言われそうだが、家で食べることに”旦那”という理由をつけて説明すると、より理解が得られそうだと思ってのことだ。

本当は、夫が帰って来ない日もあるのだが、そんな日も決まって「夫と家で食べます」と伝えるようにした。

「そっかあ、残念。じゃあ、お先に行ってくるね」

ほとんどの場合そのように引き下がってくれるようになったので、誘いを断るという居心地の悪さは”旦那”のおかげで少し軽減した。

しかし、ある日こう言われたのである。

「毎日毎日、家に帰って旦那さんのためにご飯を作って、大変だね。嫌にならない?今日はサボって一緒に食べに行こうよ」

詳しく説明しなかった私が悪いのだが、説明がないとこういう解釈になるのか、と、一瞬ポカンとしてしまった。私は社長に、”昼食をとりに帰宅する夫の為に、自分も家に戻り、食事を用意する献身的な妻”だと思われていたのである。

実際のところは、休憩時間の開始が私よりも早い夫が、私よりも早く帰宅し、チンやら丼やらパスタやらを適当に作ってくれているところに、私が帰って来る、ということが常だ。

夫が用意してくれたごはんを食べながらちょっとした会話をし、お気に入りのマットレスで少し昼寝をして、先に休憩が終わる夫を送り出してから自分も職場に戻る、これがいつものパターンなのだ。完全に私のほうがラクをしている。社長は大きな誤解をしていた。

「ごはんは夫が作ってくれるんですよ」

そう言うと、社長は驚いた顔をした。

「そうなんだ!旦那さんすごいね、ボクなんて砂糖の場所もわからないよ」

これで料理担当が私でないということは伝わったのだが、私が”みんなでランチ”を避けたいと思っていることは、幸いとも言うべきか社長は知らないままなので、今も時々「すっぽかして今日は一緒にさ」と念を押されることがある。

しかし、すみません、と困った顔をすれば、「いいや悪いことじゃないよ、いいんだよ」と言って引き下がってくれるので、これはちょっとした罪悪感を拭ってくれる素敵な対応だと思っている。

そしてときどき、「ボクらみたいな歳になると、旦那なんて稼いでくれればあとはどうでもいいみたいな感じだからさ、うらやましいよ」なんて言葉が続くこともある。

深い意味はないのだろうが、社長は家にいるよりも会社にいる方が楽しくて、こうしてランチの招集をかけるのかもしれない。

入社して10ヶ月が経つ今も、昼前になると、社長から少し楽しそうにランチに誘われる。

「エモトさん、今日は旦那さん、家にいるの?」

締めの宣伝

ここから下は昭和アットホーム企業の寡黙OLが、”めおとロックバンド”ヌレセパの饒舌歌担当に変身する時間だ。今回もがっつり宣伝させていただきたいと思う。

今回紹介するのはMVごっこナンバー003、『引っ越しラプソディー』。ちなみに私は動画担当でもあるのだが、3作目にしてよくもこんな動画を作れたものだと思う。寡黙IT企業時代、暇だったゴールデンウイークを潰して制作した懇親の一作だ。

引っ越しの時期はもう過ぎてしまったかもしれないが、あの物件探しから新しい部屋に移り住むまでの期間には、何度でも味わいたいほどキラキラとした他にはない高揚感がある。そんな瞬間を歌ったこの曲は、テンションを上げたい時にぜひ聴いてほしい。